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おすすめ作品 Secret rose garden テラス・デュフラン 第21話

テラス・デュフラン ~Secret rose garden

「え?」
 
途切れ途切れだったこともあって、エマは勇輝の言葉をうまく聞き取ることができなかった。何と言ったのかと聞き返すと、勇輝は食べかけのランチをテーブルの端にどかして、身を乗り出すような体制になりながらエマに写真を見せる。

「ここにさ、『Secret Rose Garden』って書いてない?」
 
勇輝が指差したのは、写真の右上部分。そこには確かに、うっすらと文字のようなものが見えた。バラの花に埋もれ、さらにカミーユがいる場所から文字までは少し距離があるようでとても小さいその文字。エマも顔を近づけて集中してその場所を見てみれば、勇輝の言う通り英語で「Secret Rose Garden」と書いてあった。

「今まで、全然気づかなかった……」
 
エマは放心状態でそう口にした。ずっと大切に、見つめてきた写真からの新たな手がかり。

「でも……どうして、英語なんでしょうか?」
 
だがエマは、今まで見つけることができなかった後悔よりも、新しいヒントに胸がドキドキと高鳴るのを感じた。

「これ、多分だけど店の名前なんじゃないかな。この辺りはフランス語領域だけど、隣町はもう英語領域なんだ。だからどちらにも通じるように、お店の名前を英語にする人が結構多い。もしかしたら、この辺りでやっていた店の前で撮った写真なのかもしれない」
「お店の、名前……」
「うん」
 
どんどんと早くなる鼓動を鎮めるように、エマはゆっくりと言葉を紡ぐ。勇輝もそれをわかっているからか、エマの言葉にしっかりと頷いた。

「お店の名前と、この写真からの予想にはなるけど……。多分、ここはお花屋さんか何かの前なんじゃないかな」
「勇輝さん、何か、調べられるものとかありませんか?」
「家に帰ればパソコンがあるよ。ここを出たら向かうつもりだったし、早速行こうか」
「はい」
 
嬉しさからか、興奮からか写真を持つ手が震える。シワになってしまわぬように丁寧に財布の中へと戻したエマは、勇輝と二人、焦る気持ちを抑えるようにランチを食べる。そして、自分の分の代金を勇輝に渡して立ち上がった。
会計が終わるまで勇輝の家に向かうことはできないが、それでも外に出たかったのだ。

「お待たせ」
「どうしよう、勇輝さん」
「うん。俺もすごいワクワクしてる」
 
会計を終えて出てきた勇輝は、エマの言葉の意味を理解して、少年のように歯を見せて笑った。そして、バス停がある方へと足を進める。

ここから家までは一時間もかからないと言った勇輝に、エマは小さく頷く。到着したバスに乗り込むと、焦る自分の心を両手を握りしめて落ち着かせて、視線を窓の外へと向けた。

あと少しで、おばあちゃんの居場所がわかるかもしれない
それが、今のエマにはただただ嬉しくて、ただただ、幸せなことだった。

「ごめんね、散らかってるけど」
 
バスに揺られること五十分。バス停から数分歩いたところに勇輝の家はあった。同じ師を仰ぐ友人と一緒に住んでいると言っていたアパートは、2LDKでとても広々とした空間だ。

「ちょうど今彼は帰省中でさ。エマが来ることは伝えてあるから、気にせず上がって」
「おじゃまします」
 
リビングを通り抜け、勇輝が使っている部屋へと向かう。勇輝は散らかっていると言ったが、リモコンなどの小物も全て決まった場所に片付けられているようで、むしろ綺麗な部屋だとエマは思った。

「これ、好きに使っていいから」
「あ、ありがとう」
 
差し出されたパソコンを、お礼を言って受け取る。画面のロックは解除してあるのか、すでにホーム画面が表示されていた。

「俺は続きを書いてるから、終わったら声かけてくれる?」
「わかりました」
 
執筆用だと言うノートパソコンを手に立ち上がった勇輝は、リビングで書くからと言って部屋を出ていった。その後ろ姿を見送ったエマは、勇輝が扉の向こうへ消えた瞬間、すぐさまインターネットのブラウザを立ち上げる。
 
いつかと同じように、両手の人差し指一本ずつを使って、ゆっくりと文字を入力していく。本当はもっと早く打ちたいのだが、慣れていないため速度を上げることができず、歯がゆい思いをしながら一生懸命調べた。
 
写真に書いてあった「Secret Rose Garden」という名前だけで検索してみたり、花屋を追加して検索してみたり。祖母、カミーユ・ベルランの名前も入れて検索してみたり。
 
出てきた検索結果も一つずつ開き、中身を慎重に確認していく。

「……エマ」
「っ! 勇輝、さん」
「少し、眠ったほうがいい」
 
気づけば、日が入ってきて明るかったはずの部屋は真っ暗だった。

「もう夜中だ、明日また調べていいから」
「ご、ごめんなさい。勇輝さんも眠いのに…」
「俺はいいよ。もともと、よく昼夜逆転するしね」
 
今エマがいるのは、勇輝の部屋。夜中まで付き合わせてしまったことに頭をさげれば、勇輝はよくあることだと笑う。

「でも、エマはまた探しに行く体力が必要だろう? 今は眠って、明日また探せばいい。今日しっかり眠っておけば、明日見つかったときにすぐ出れるだろ?」
 
先を見据えた勇輝の言葉に、エマは小さく頷いた。あれほど落ち着こうと思っていたのに、手がかりを見つけた途端我慢ができなくなっていたようだ。

「じゃ、俺は隣で寝るから。おやすみ、エマ」
 
エマが頷いたことで安心した勇輝は、自分は友人の部屋で寝ると言って部屋を出た。先ほども見た後ろ姿を見送ったエマは、思ったよりも疲れていたのか、勇輝の背中が見えなくなる前に、彼のベッドへ倒れ込んでいた。

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