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おすすめ作品 Secret rose garden 一筋の光 第16話

一筋の光 ~Secret rose garden

「いらっしゃいませ」
「着物だ」
「二人、禁煙で」

フランス人の着物姿に、口をあんぐりと開けて驚くエマは気にせず、セナは席の案内を頼んだ。頷いた店員は「こちらです」とエマたちを奥の部屋へと案内する。

案内された部屋は、畳が敷いてある小さな個室だった。
襖を開けた先にある個室に入ると、反対側はガラス張りになっていて、外の竹林を眺められるようになっている。エマはキョロキョロと辺りを見渡しながら中に入り、座布団が置かれた座椅子に腰を下ろした。

店員に渡されたおしぼりで手を拭いていたエマに、セナはメニューを手渡した。そこには、フランス語だけでなく日本語でもメニューが書かれている。

「うわあ……日本語で書いてあるんですね」
「そうなのよ。味もなかなかだから、期待してていいよ」

嬉しそうに口をほころばせたエマに、セナはパチンとウィンクをした。
しばらく悩んだあと、セナは握り寿司のランチ、エマはざる蕎麦に天ぷらをセットで注文すると、ポットに入ったお茶がテーブルの横に置かれた。各自自由に、中身のお茶を湯呑みに入れて飲めるようになっている。

「入れますね」
「あ、ありがとー」

緑色の緑茶が、ポットの口から出てきて湯呑みへと注がれる。懐かしいその色と匂いを堪能しながら、エマは一つをセナの前に置いた。

「……美味しい」
「落ち着くねぇ」

のんびりとお茶を飲み、注文した料理の到着を待つ。

「失礼します」

店員の声とともに、襖が静かに開かれた。店員の手元にある大きなお盆には、握り寿司ランチが乗っている。

「おー、きたきた」

握り寿司に味噌汁、茶碗蒸しにお新香が乗ったお盆がセナの前に置かれ、一旦襖の向こう側に店員が消えた。そして今度は、エマが注文したお蕎麦を持って戻ってきた。一枚のざるの上にお蕎麦が乗っていて、その隣にはカラリと上がった天ぷらと味噌汁、お新香も付いている。

「さ、食べよっか」
「いただきます」

手を合わせて、久しぶりの箸を握ったエマは、サクサクの天ぷらにまず手を伸ばして一口頬張る。サクサクの衣から、弾力のあるエビが飛び出た。ナスの天ぷらも、サクッとした衣の奥にとろりとしたナスがエマの舌を楽しませる。そして蕎麦も手打ちのもののようで、味、香りともにとても良かった。

「はー……すごく、美味しかったです」
「ん、なら良かった」

ごちそうさまと手を合わせて、箸を置く。二人の目の前にあったたくさんの料理たちはすでに空っぽで、エマは同じように空になっていた湯呑みにお茶を注いで、セナに手渡した。お礼を言って受け取ったセナは、一口飲んで口の中を落ち着かせたあと、座椅子に座り直す。

「さてと、じゃあ……そろそろ本題に入ろうかね」

湯呑みを持ったまま、セナはまっすぐにエマを見つめた。真剣なその視線に、エマも思わず背筋を伸ばす。

「今エマは、フランス中のお墓を探したよね?」
「……はい」

落とされる言葉に身構える。だがもしここで絵の購入を打ち切られてしまったり、もう手伝えないと言われたところで、エマは諦めるつもりはなかった。そして、もしそうなったとしても、当然セナとの関係を終わりにしようなどとは思わない。
ただ、諦めろと言われることだけが怖かった。

「そして、見つからなかった」
「…………」

次の言葉を聞きたくなかった。けれどセナの言っていることは間違ってはいない。エマはほんの少しだけ、首を縦に振ることで答える。

「実はさ、エマがフランスを回ってる間、私の方でも何かわからないか探してみたんだよね」
「……へ?」

身構えていたエマは、予想とは全く違うセナの言葉に思わず気の抜けたような声を出した。

「なんて顔してんのよ」

声だけでなく、顔に入っている力も抜けてしまったようだ。セナに頬を突かれながら指摘され、苦笑しつつもエマは先を促した。

「そう、その過程で気づいたんだけど……。フランス語を話す場所は、フランスだけじゃなかったんだよね」

カミーユの手がかりは、その名前からフランス語圏内の人物であった可能性がわかるだけだった。そう、フランス語が使われているところは、フランスだけと言うわけではなかったのだ。

「それって」
「三年かけて回ってもフランスにはなかった。であれば、別の場所も探してみないとじゃない?」

――一緒におばあちゃんを見つけよう
 言葉にされたわけではないが、セナにそう言われた気がした。

「……ありがとう、セナさん」
「お礼は、見つけてからでいいよ」

ツンとしてきた鼻の奥。堪えて笑えば、返ってくる言葉が暖かくてまた胸にくる。エマは目を思いっきり閉じて誤魔化すようにお茶を飲み干すと、閉じていた目をゆっくりと開いた。溢れる前に軽く目をこすったエマは、少しだけぼやける視界を気にせずセナへと視線を向ける。

「それで……」
「うん。何箇所かあるみたいなんだけど、今私が確認できているところはカナダだね。カナダの、東海岸……」

エマの言葉に促されるように、セナは調べた情報を共有する。

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