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おすすめ作品 Secret rose garden 一筋の光 第15話

一筋の光 ~Secret rose garden

エマはスケッチブックを取り出すと、早速カイルの前でそれを開いて見せた。中には、エマの辿ってきたいろんな場所が描かれている。

注文した飲み物が運ばれてきてから、エマはそのスケッチブックを元にいろんな場所の説明をした。もちろん、昨日セナにしたようなたくさんの人との出会いの話も口にすれば、カイルは青い瞳をビー玉のようにキラキラと輝かせる。

「すごいね。旅をする勇気は今の僕にはまだないけど、話だけでもこんなにわくわくするものなんだ」

すでに手元にあった自分のコーヒーを口に運んだあと、カイルは興奮したように呟いた。話を聞くのに夢中でコーヒーが冷めてしまったと文句を言っているが、弾んでいる声音と楽しそうな表情から、からかっているだけなのだろう。
カフェに待ち合わせをした時間は十時だったが、カイルが腕時計を確認すると今はもう十二時を回っていた。あっという間に過ぎていく時間に驚きながら、カイルは席を立ち上がる。

「面白い話を聞かせてくれたお礼に、ここは僕が払うよ」

机に置いてあった伝票を流れるように手に取ったカイルは、セナとエマに背を向けた。

「次は、もっといい話を期待してるね。君の旅に幸あれ」

伝票を持っていない手を軽く振って、去っていくカイルの後ろ姿を見送る。

「様になってるのがなんか悔しいんだけど」
「……様になってるならいいじゃないですか?」

カイルの支払いが終わるまでそんな会話をして、彼の背中が見えなくなったと同時にエマとセナも席を立った。グッと伸びをして、このあとどうするかと話し合う。

「んじゃ昼ごはん食べに行こっか。戻ってきてもらった理由も話したいし」

会話をしながらカフェを出て、セナの車に再び乗り込んだ。
昼食に食べたいものがあるかと聞かれたエマは、久しぶりに日本食が食べたいと口にした。セナはグッと親指を立てて、よくいく日本料理屋へとハンドルを切る。

「うんと美味しいの食べさせてあげる」
「できれば、お財布に優しいところでお願いします」

含み笑いをするセナに、エマは縮こまった。バラの絵の収入はそこまで多くはない。節約したり、たまに出会えた親切な人の家に泊めてもらったりしながらなんとかやりくりできるくらいの微々たるものだ。
セナに買い取ってもらった絵のお金は、旅の間は使わずに貯めていた。そのお金でパリまでの電車の切符を購入してしまったため、手持ちの金額は残りわずかだ。

「三年間頑張ったエマに、少しぐらい労いがあったっていいでしょ? それにさ、私有休の間すごく暇なんだよね。奢ってあげるから、しばらく私の有休消化に付き合ってくれない?」
「あ、後半が本音ですか」
「ばれたか」

ペロリと舌を出したセナに、エマはクスクスと笑って頷いた。
三年も旅を続けてきたのだ、一ヶ月くらいの休暇に付き合うくらいなんの問題もない。

「いいですよ。じゃあ、休暇を消費する間のお給料ということでいただきます」
「そう思って話してはいたけどさ、本当にあんた……随分とたくましくなったね」

長い旅路の期間で「素直に受け取る」ということをある程度学んでいたエマは、そう言ってニッコリと微笑んだ。特にセナにはもう随分とお世話になっているため、かなり心を許している。エマが受け取りやすいように、細かく言葉を選んでくれているセナの気持ちもきちんと理解できるようになったエマに、断るという選択肢はない。

「セナさんにだけですよ」
「それは、喜んでいいの?」
「いいんじゃないですか?」

レストランまでの数十分、車内で会話が尽きることはなく、気づけばもうレストランに到着していた。

「ここよ、ここ」
「高いところだとやっぱり申し訳ないんですけど」

車を降りて、レストランを見上げたエマが尻込みした。
セナが連れてきてくれた日本料理屋は、パリにあるにも関わらずその場所だけが日本なんじゃないかと錯覚するような佇まいだった。
広い駐車場を入ると、奥にある店の周りには竹が植えられ、駐車場から店までの間には砂利が敷いてある。店まで歩きやすいよう、砂利の中には一定間隔で大きな飛び石が置いてあった。

「本当に、日本みたい……」
「いかにも日本! って感じのこんな家に住んでたわけじゃないけどさ、なんか安心するよね」

興奮で車を降りるなり店の入り口まで走って近づいていたエマの後ろから、車を降りたセナがのんびりと歩いてきた。エマはその言葉にしっかりと頷いて、飛び石を踏みながら店への道を進む。
短い距離ではあるが、植えてある竹の間を通り抜けてたどり着いた店の入り口。引き戸のそこは、エマが辿り着くと同時に自動で開いた。

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