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おすすめ作品 Secret rose garden 一筋の光 第13話

一筋の光 ~Secret rose garden

お墓探しを始めて、早いものでもう三年の月日が経った。フランス中を歩き回ったエマは、フランスにあるほとんどのお墓を周り終わっていた。だが、未だにカミーユのお墓にはたどり着けていない。

「一回さ、こっち戻ってこない? ちょっと話したいこともあるし」

スペインとの国境付近まできていたエマは、セナへいつもの定期連絡を入れていた。そこで言われた言葉に疑問を抱きつつも、これから先どうしようか迷っていたエマは二つ返事で了承する。

今まで歩いてきた道をさかのぼることはなく、電車を使って一直線にパリへと戻る。フランス各地を歩くのに費やしたのは、三年という決して短くはない年月。だがそれも、乗り物に乗ってしまえば出発地点へのパリまではあっという間で、なんだかひどく寂しくなった。

電車の窓から、フランスの町並みを眺める。エマが歩いた道が、街が、一瞬ではるかかなたへと流れ、消えていく。エマはこみ上げる何かを押し込めて、通り過ぎる景色を胸に焼き付けた。

列車に揺られること約六時間。スペイン国境付近からパリ郊外へと戻ってきたエマは、セナの家へと向かっていた。
三年前にも見た景色を眺めながら、三年前よりもしっかりとした足取りで進んでいく。

「おかえり、エマ」
「ただいまです、セナさん」

たどり着いたセナの家。ひどく懐かしく感じるそのドアをノックすれば、エマに合わせて有給を取っていたセナが、笑顔でドアを開けてくれた。
定期的に連絡を取っていたはずなのに、声はずっと聞いていたはずなのに。目を細めたその笑い方が懐かしくて、エマを不思議な感覚が襲った。

「ま、とりあえず荷物置きなよ」

相変わらずさっぱりとしているセナは、再会の余韻に浸るエマは気にすることなく、彼女が通りやすいようにドアを開けたまま体をずらした。
ぺこりとお辞儀をしてエマが足を踏み入れると、コーヒーの香りがふんわりと香った。初めてこの家に入ったときも感じたこの香りにひどく安心する。そしてセナの行動もあのときと同じで、キッチンへ向かった彼女は手際よくコーヒーを淹れてくれた。

「ありがとうございます」

差し出されたカップをお礼を言って受け取る。たっぷりミルクが入ったコーヒーは、相変わらず飲みやすくてとても美味しい。

「いい顔になったね、エマ」

三年ぶりの再会。初めてセナと出会ったとき十八歳だったエマは、二十一歳になっていた。髪もかなり伸びて、顔つきもしっかりとしてきたエマは、もう立派な大人の女性だ。

「そう、ですかね」

エマは照れ臭そうに頬をかいたあと、目の前のコーヒーカップを手に持って、恥ずかしさを誤魔化すように一口飲み込む。

「旅は、どうだった?」

そんなエマの心境に気づいていないセナは、同じようにコーヒーを口に運びながらそう問いかけた。

「とても、有意義なものでしたよ」

カミーユの情報がまだ見つかっていないことは、当然セナもわかっている。だからこそ今は、エマがしてきた「旅」がどうだったかと質問をした。
定期的に連絡は取っていたが、連絡しているときは基本的にカミーユの情報についてのやり取りのみだった。通話料もかかってしまうことから、あまり長く関係のない話はできなかったからだ。

久しぶりに再会した今、必要なことだけ話してすぐに「さよなら」をするような浅い関係ではなくなっている。

——ゆっくりと関係のない話をしよう。
セナの言葉の裏側の意味に気づいたエマも、拒否することなくその会話に乗っかった。

「綺麗な景色や世界遺産も見られましたし……、それになにより、素敵な人たちともたくさん出会えました」

エマは自分で記録として描いていた絵をセナに見せながら、自分がどこに行ったのか、そんな景色を見たのか、そして、どんな人と出会ったのかを彼女に話して聞かせた。
コーヒーを片手に、興味深そうに首を縦に動かしたり、たまに目を細めて笑ったりするセナに、エマの胸の奥が暖かくなる。家族がいたら、母親がいたら、こんな感じなのだろうかと。

――いや、母っていうより……
母親のような包容力という意味では、日本で出会った幸代の方が近い気がして、エマは考え込むように話していた口を閉じた。セナは母親よりも、そう、きっと父親に近い。自分で考えたことなのになんだかおかしくて、エマは思わず閉じていた唇を緩める。

「何笑ってんの?」
「いや、なんでもないです」

じとっとした目で見られてしまって、思考がバレたわけではないのに焦ってしまう。そのあとも和やかな雰囲気で会話は弾み、結局その日、エマを呼び戻した理由には最後まで触れられることはなく。エマが三年間してきた旅の話で、二人は夜遅くまで語り明かしたのだった。

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