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おすすめ作品 Secret rose garden 手がかりは、、、第12話

手がかりは、、、 ~Secret rose garden

「お互い、自分の目標を語っただけさ」
「……誰かに話すことって、大事なんですね」

二人は見つめあって、同時にクスリと笑う。
事情を伝えているからこそ、これ以上迷惑をかけたくなくて、エマは今まで誰にも心の内を話せなかった。

しかし、勇輝はエマのことを何も知らなかった。けれど彼にも、同じように夢が、目標があった。そしてそれは、今のエマとは全く違う状況なのに、なぜかとても共感できた。だからこそエマは、自分の目標を素直に打ち明けることができたのかもしれない。

「そうだね」

エマはスッキリとした顔で、勇輝から返してもらったスケッチブックをパラパラとめくった。心が軽くなったからか、目標がはっきりしたからか、先ほど描いたものがとても輝いて映る。

「そうだ、良かったらこれ」

焦りがなくなり、心にゆとりが生まれたからか、エマはとても穏やかな表情でスケッチブックを眺めている。そんな彼女に、勇輝はポケットから小さな紙を取り出し渡した。
不思議そうに紙を受け取ったエマが視線を落とせばそれは名詞で、カナダにある勇輝の住所と連絡先が書かれている。

「もしカナダにも来ることがあれば、俺にも少しは協力できるから」
「でも――」
「お礼は、君の旅の話がいいな」

焦って断ろうとしたエマの言葉を遮って、勇輝はそう口にした。

「君の旅は、作家の俺からしたらすごく興味のあるお話だからね」
「お礼とかじゃなく、いつでも話しますよ?」
「あとは……せっかく知り合えたから、近くに来たのならまた会いたいなって」
「最初から普通に、そう言ってくれればいいじゃないですか」

口を尖らせたエマに、勇輝はごめんごめんと謝る。だが、エマも本気で怒っているわけではなく、その唇はすぐに元の形へと戻った。

「じゃあそのときには、頼らせていただきますね」

今までよりも柔らかい声で、そして素直に、エマは頼るという言葉を口にした。勇輝は満足そうに、嬉しそうに頷く。

「あ、おばあさんのお墓が見つかったときも、ぜひ連絡してね」
「ふふ。わかりました」

右手の人差し指を立てて、念を押すようにそう言った勇輝に、エマは笑いながらイエスと答える。その答えに満足した勇輝は、座っていたソファから腰をあげた。凹んでいたはずのソファは、かかる圧力がなくなったためにゆっくりと元の形へと戻っていく。

「それじゃ、俺はそろそろ行くよ」

ずいぶん長く話してしまったと言って、勇輝は足元に置いてあった自分の荷物を持ち上げた。結構な量の荷物に、エマは心配そうに勇輝を見つめる。

「俺の旅行、実は今日で終わりなんだ」
「じゃあ、カナダへ?」

意味を理解したエマに、勇輝は笑顔で肯定した。これからお土産でも購入して、今日の最後の便でカナダへ戻る予定だったという。

「あ……じゃあ時間――」

引き止めてしまったかなと心配になったエマがリビングにある時計に視線を向けると、時刻は夕方の四時を指していた。エマの視線の先に気づいた勇輝は、気にしなくて大丈夫だと言ってひらひらと右手を振る。

「エマの旅のお話っていう素敵なお土産をゲットしたからさ」

勇輝はエマに笑顔を向けながら、外に通じるドアへと手をかけた。

「それじゃあエマ。いい旅を」
「はい。勇輝さんも、お気をつけて」

勇輝は最後にもう一度ひらひらと手を振ってから、ドアの向こうへと姿を消した。ドアが閉まる音がしたあと、リビングで話している他の人たちの声が急にエマの耳に入ってくる。
さっきまで聞こえていた母国の言葉は、もうどこからも聞こえない。

「よしっ! 私もまた明日から、頑張ろう」

今この場では、エマ以外話すことのできない言葉を呟いて、もういない勇輝に心の中でもう一度お礼を言う。そして借りている部屋へと戻ると、明日からの旅に備えて、エマは早めにベッドへと入り、深い眠りについたのだった。

そして次の日から、エマは気持ちを新たにカミーユのお墓を探す旅に出発した。
どんな小さなお墓も回り忘れることのないように、基本的には全て徒歩での移動。行ったところには全て印をつけて、自分の足跡をしっかりと記録して歩く。

途方に暮れるほど長く、そして大変な旅路だったが、勇輝と話ができたこともあり、エマの心はとても晴れやかだった。
街中での休憩で、たまの贅沢でカフェに入ることがあった。そのときに流れてくるラジオでカイルの番組を聞き、カミーユの情報を求めるカイルの声に、とても力をもらった。お金に余裕があるときは、セナの手がける雑誌も購入した。中に書かれている日本語に癒され、カミーユの情報が書かれているページを見て勇気をもらった。

そして疲れたときには、無理をせずに休むことも覚えた。

「エマ、なんか変わったね」
「そうですか?」

久しぶりの定期連絡で、セナは穏やかに声を出した。特に変化を意識をしていなかったエマは、受話器を握りながら首を傾げる。

「んーなんて言うのかな、こう……より自然になった感じ。力が抜けたって言うの?」

電話口のセナの声は、どこか柔らかな響きをはらんでいた。そして「安心した」と続けるセナに、エマは知らず知らずのうちに心配をかけていたことを知る。同時に、勇輝と話して肩の力が抜けたことによって、セナを安心させてあげられたこともわかって、むず痒い気持ちになった。

「一人じゃないんだなって、改めて感じたからですかね」

勇輝とのことを話すのは少し恥ずかしくて、エマは曖昧に答えた。その答えでセナは満足したのか「そっか」と一言つぶやく。

「あんたが元気ならそれでいいよ。私は」

相変わらず男前なセナの言葉に笑ったあと、エマは今後の予定を伝えて電話を切った。

「間違って、なかったみたい」

勇輝と話して、はっきりとした目標。
セナとの会話から、今目指している方向が間違ってなかったことを改めて理解できて、緩む口をどうにかしようと頬を押さえつけてみる。けれど結局唇は弧を描いてしまって、エマはしばらくその状態のまま、ニコニコとした笑みを隠すことができなかった。

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