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おすすめ作品 Secret rose garden 手がかりは、、、第10話

手がかりは、、、 ~Secret rose garden

セナの家を出てから二年。エマはフランス中のお墓を渡り歩きながら、カミーユを探す日々を送っていた。路上で描いた絵を売って資金を集め、資金を集めてはお墓をめぐり、そしてまた絵を描く。そんな毎日の繰り返し。

「まだ見つからない、か」
「……はい」

今回の滞在先であるユースホステルのリビングで、エマはセナへの定期連絡を入れていた。滞在先が決まるたびに行っている連絡なのだが、セナは進展のないことで落胆するエマになんと声をかけていいかわからず、いつもと同じようにその内容繰り返すことしかできなかった。

フランス中で放送されているラジオでも、同じく全域で発売されている情報誌でも呼びかけ続けているにも関わらず、情報は何一つ入ってこない現状。手がかりは名前だけだ、見つからないのは仕方ないとわかってはいるが、前にも後ろにも進めていない状態はやはり辛い。

「とりあえずこれからは、このホステルを拠点にして調べてみるつもりです。いつも、ありがとうございます、セナさん」
「体、壊さないようにちゃんと休むんだよ?」
「はい」

逃げるように電話を切ったエマは、ホステルのリビングに置いてあるソファに深く腰掛けた。だらりと手足の力を抜いて、ぼんやりと天井を見上げる。灰色がかった天井が今の自分の心の色を表しているような気がして、自虐的な笑みを浮かべた。

「……こんなんじゃ、ダメだよね」

ポツリとつぶやいて、ゆっくりと体を起こす。隣に置いていたバックパックの中身を漁り、取り出したのはスケッチブックと鉛筆。
何も描かれていない真っ白なページを開いたエマは、そこに絵を描き始めた。今まで行ったお墓の絵や、旅をしているときに見た景色を思うままに、下書きもせずにそのまま描いていく。描き上がった絵の左下には全て、描き慣れた小さなバラを描いていった。

「あれ、もしかして君、日本人?」

突然、懐かしい日本語がエマの耳に届いた。セナとの会話は、エマの練習もかねてフランス語なので、フランスに来てから日本語で会話をしたことはほとんどない。

特にエマは、日本からの観光客があまり行くことのない墓地を中心に回っている。泊まるところもユースホステルばかりで、観光に来ている日本人との巡り合わせは今までなかった。

「あ、はい。あなたも?」

顔を上げれば、机の向かい側にあるソファに黒髪短髪の穏やかそうな顔をした青年が座っていた。少し細長の目に薄めの顔は確かに日本人特有のもので、エマは少しだけ安心する。

「うん、俺も日本人なんだ。まさかこんなところで同郷の人に会えるとは思ってなかったよ」
「私も、驚きました」
「あ、俺の名前は勇輝です。よろしくね」
「エマと言います。こちらこそよろしくお願いします」

向かいのソファから身を乗り出して手を差し出してくれた勇輝にならい、エマもソファにつけていた背を離して手を伸ばした。

「エマさんは、絵描き?」
「はい、バラの絵を売らせていただいています」

後ろのドアから入ってきたときに見えたのだと言った勇輝に、集中していて気づかなかったなと思いながらエマは頷く。
描いている絵を見せて欲しいと言った勇輝に、断る理由もないのでとスケッチブックを差し出した。スケッチブックを受け取った勇輝の手によって、パラ、パラとめくられる紙の音が部屋の中に響く。勇輝が紙をめくる仕草は、とてもゆっくりで丁寧だ。

「とても、優しい絵を描くんだね」
「そう、ですか?」

今描いていたものは売るためではなく、気分転換で描いていた絵だ。鉛筆で、思ったまま、自由に書き上げられたその作品たちに、勇輝は素敵だと言葉をこぼした。

「ここへは、何をしに?」
「フランスにあるはずのおばあちゃんのお墓を、探す旅をしているんです」

勇輝から「ありがとう」の言葉とともに返されたスケッチブックを受けとって、エマはそう答えた。

「おばあさんのお墓を? それは、大変だね」

一瞬目を見開いた勇輝は、「あるはず」という言い方をしたエマに少しだけ疑問をもっていた。だが、初めて会った、しかも女性に対していきなりデリケートな部分を聞くのは憚られて、一言に留める。

「俺は、カナダのモントリオールで作家として活動してるんだ。といっても、まだまだひよっこでさ、修行中の身なんだけど……」

フランスへは、小説の資料を集めるという名目で旅行に来ているんだと勇輝は苦笑した。今少しスランプ気味なんだと続ける勇輝に、エマはカミーユの墓がなかなか見つからずに行き詰まっている自分と重ねる。

「よかったら、お話聞かせてもらえませんか?」

気づいたら、エマはそう口にしていた。ぽかんと口を開けた勇輝は、しばらくすれば唇をフニャリと緩めて、嬉しそうに破顔する。

「……俺の話でよければ」

そこから、勇輝はたくさんの話を語ってくれた。今考えている小説の構想や、自分が師と仰ぐ人がどれほど素晴らしいかを、目を細め、噛みしめるように口にする。なかなか芽は出ないけれど、それでもやっぱり描くことは楽しいんだと、勇輝は笑った。

「俺の手から紡がれる話で、いつかいろんな人に感動を与えられるようになりたい。すぐには難しいかもしれない。けど、そう思えばどんなに辛くても頑張れるんだ」

体の前に出した右の手のひらをグッと握りしめた勇輝は、真剣な表情でそう締めくくった

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