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おすすめ作品 Secret rose garden 小さな軌跡を探す旅 第9話

小さな軌跡を探す旅 ~Secret rose garden

「絵はちゃんと毎週送りますから、安心してくださいね」
「当然。送ってくれなきゃ当然バイト代はないから」

しんみりとしてしまわないように、エマは話題を切り替えた。セナもそれがわかったからか、エマの顔を覗き込むとからかうようにニヤニヤと笑う。

「わ、忘れないように頑張ります……」

セナの担当する情報誌は週に一日の発売。毎週の雑誌に載せられるように、バラの絵を描いて送ることは事前に決めていた。バラの絵を送れば、その分バイト代としてセナがお金を少しだけ口座に振り込んでくれることになっている。

幸代に頼まれていることもあって、本当は全面的に工面したいとセナは思っていた。だが、そこはエマがきっちりと断っていた。
――お金くらいは、自分で稼がせてください
強い意思の宿った瞳で見つめられてしまえば、セナにはそれ以上口を出すことはできない。無理はしないことを口すっぱく言った上で、引き下がっていた。 

「さて、到着」
「ラジオ局、ですか?」

ノヴァ・ラジオと書かれた看板を見上げたエマに、セナは頷いて足を進める。彼女が入り口の警備員と言葉をかわせば、すぐに渡された入館証。

「ここで、自分の番組を持ってる知り合いがいるんだよね」

ラジオ局に顔パスで入れるセナに驚いていれば、入館証はエマの手にも渡された。首にかけるように言われたので慌ててかけると、いつかと同じようにエマを置いてすでに足を進めているセナの背中を追いかける。

「あ、いたいた」

エレベータに乗り、五階で降りた。目の前に広がる大きな窓からは、ラジオ局周辺が見下ろせる。その窓に寄りかかりコーヒーを飲んでいた男性に向かって、セナは手を上げながら近づいた。

「カイル、お待たせ」
「やあセナ」

セナに呼ばれて振り向いたカイルという男性は、淡いクリーム色の髪を短く切りそろえ、鼻筋もすっと通ったとてもハンサムな人だった。澄んだ青色の瞳が印象的なカイルは、タレ目な瞳をさらに下げて、フニャリと笑う。

「エマ、彼はカイル。結構人気なラジオのパーソナリティーをしてるのよ」
「なんか棘がない? その言い方。今紹介してもらったけど、僕はカイル。よろしくね」

 困ったように笑いながら、カイルはエマに向けて改めて自分の名前を名乗ると、大きな手を差し出した。

「初めまして、エマと言います」
「セナから話は聞いてるよ。彼女同様、見かけによらずアグレッシブみたいだね」

差し出された手を握ると、本場仕込みのウィンクが返ってきた。日本男子がやるものとは全く違う自然なその仕草に、思わずエマは呆然とする。

「あんた顔はイケメンなんだから、軽々しく愛想振り撒かないの」
「君は相変わらず僕に冷たいね……」

セナがカイルの脇腹を小突くと、カイルはため息を吐き出した。このやり取りは頻繁に行われているようだ。

「あ、あの、カイルさん。初めて会った方にいきなりこんなお願いをして、本当にごめんなさい……。私のおばあちゃん――カミーユ・ベルランのことを、ラジオで呼びかけていただけないでしょうか」

正気を取り戻したエマは、カイルに向かって勢いよく頭を下げた。
すでにカイルには、セナが簡単に話を伝えてくれていることは聞いていた、それでも、自分の口でお願いをしたかったのだ。

「うん。想像通り、君も素敵な人みたいだね」
「へ?」
「セナからも話は聞いてるし、元々受けるつもりだったけど」

エマの身長に合わせて少しかがみこんだカイルが、エマの頭にそっと手を乗せた。

「喜んで引き受けさせてもらうよ」
「よかったね、エマ」
「あ……ありがとうございます!」

勢いよく頭を下げたエマに、今度はセナの手も乗せられた。軽くポンポンと叩かれて、こみ上げてくるものを抑えて顔をあげる。
こうしてカイルにも、カミーユの情報を集める手伝いをお願いすることができた。カイルには、彼が毎週担当しているラジオ番組で、カミーユの情報を呼びかけてもらうことになっている。

ちなみにカイルのラジオ番組は、セナが言うようにフランス全土に流れているとても有名な番組だ。
これでまた少しだけ、カミーユの情報が入る可能性が上がった気がした。

「もう行くの?」

カイルにお願いをし終えたエマは、バックパックを背負いラジオ局の外へと出てきていた。番組前のカイルと、セナも見送りに出てきている。

「はい。善は急げって言いますから」
「カミーユの情報見つかったあかつきには、ぜひ僕にも連絡をくれると嬉しいな」
「拠点決まったらちゃんと連絡入れてよね」

二人の言葉にしっかりと首を縦に動かしたエマは、くるりと背を向ける。

「行ってきます」

そして振り向かずに、足を前へと踏み出した。

エマが足を踏み出したちょうどその頃、日本にいる誓子と哲也の元に、エマからの手紙が届いていた。

「あなた、エマちゃんから手紙!」
「…………」

エマがフランスに到着し、セナの家でお世話になっていたときに送っていた手紙だ。

『誓子さんと哲也さんへ――お久しぶりです。数日前、フランスに無事到着しました。今は知り合いのセナさんの家にお世話になりながら、墓地を巡っています。セナさんや、他の人の手を借りながら情報を集めて、私もフランスの墓地を探す日々を過ごしています。まだまだ時間はかかりそうですが、いい報告ができるよう、頑張りますね! エマ』

手紙には、凱旋門の写真が同封されていた。エマも、横にちょこんと写り込んでいる。手がかりを探す途中で自分たちのために撮ってくれたものだとわかり、誓子は目を潤ませる。

「……あまり泣いてばかりいると、エマが心配するぞ」
「そうね。うん……そうよね」

書かれていた内容に何度も目を通しながら、誓子は自分の涙が流れ落ちる前にそれをタオルで拭う。隣に寄り添って座っている哲也も同じように手紙に目を通して、どこか安心したように頬を緩ませていた。

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