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おすすめ作品 Secret rose garden 小さな軌跡を探す旅 第8話

小さな軌跡を探す旅 ~Secret rose garden

セナと別れてから数時間。電車に乗り、観光名所を通り抜け、教えてもらった場所へと足を動かす。時折、花屋の前でバラを眺めたりしながら足を進めてたどり着いた場所は、パリで有名なペール・ラシェーズ墓地。

観光地でもあるこの墓地には、著名人が数多く眠っている。エマの祖母、カミーユが眠っている可能性はどちらかといえば低い。だが、せっかくフランスまで来たのだから、張り詰めすぎずに少しは観光もしてみたらどうか。というセナの勧めでこの場所に訪れていた。

「ここが、フランスのお墓……」

歩きやすいように、人が通る道には石畳が敷かれている。両側には石で作られた小さな協会のようなお墓が並び、まるで小人の住む町のようだ。お墓の間には木が植えてあるところもあり、木々から落ちた葉が地面を赤茶色に染めている。

風が吹けば葉がかすれ、木々から優しい音が溢れる。それが、向こうの世界へ行ってしまった人たちのささやき声のような気がして、怖さよりも、神秘的なその空間にただただエマは圧倒された。

「……綺麗」

さらに奥へと進むと、広い場所に出た。お墓の形は一つ一つ違っていて、さらに、添えられた花たちによってその華やかさがより一層変化する。
今エマの前にあるお墓は、あの有名な「ショパン」のお墓のようだ。色とりどりのたくさんの花が添えられた彼のお墓の前は、まるで花屋みたいだとエマは思った。花は手入れが行き届いているようで、みずみずしく美しい花を咲かせている。

「おばあちゃんも、こんな場所で眠っていたら幸せだろうな」

たくさんの花によって美しく彩られて、見守られているお墓。全てのお墓がそうではないとわかっていても、エマはそう思わずにはいられなかった。

広大な墓地を歩き回りながら、念のため一つ一つお墓に掘られた名前も確認していく。
観光地になるほどのお墓なので、広さも、埋葬されている人の数も信じられないほど多い。著名人が埋まっている区画以外を歩いたはずなのだが、それでも気づけば日は暮れかけてしまっていた。

「おかえりー。遅かったね、どうだった?」
「あ、ただいま帰りました。すごく大きくて、とっても綺麗な墓地でした」

セナの家に着くことには、とっぷりと日が暮れたあとだった。玄関を開けば、すでに家に帰っていたセナが明るい声で呼びかけてくる。

「そうだね、なんたって観光名所になるくらいだし。あ、ご飯もうできるからさ。手、洗ってきな」
「はい、ありがとうございます」

エマはバックパックを二階の部屋に置いてから洗面所で手を洗い、セナの用意してくれた料理をダイニングテーブルに運ぶ。そして、セナの向かい側の席に座った。

「じゃ食べようか」
「はい。いただきます」

ここはフランスだが、二人して仲良く手を合わせてから食べ始める。目の前に並ぶのは出来立てのミートソースパスタ。そしてカゴの中には数種類のパンが入っている。エマはまずパスタを一口頬張ると酸味の効いたソースをしっかり味わってから飲み込んだ。

「明日からは、フランスにある墓地を一つずつ回ってみようと思ってるんです」
「回ってみるったって、結構な数あるよ?」

ちぎったフランスパンをミートソースにつけてから口に運んでいたセナが、エマの言葉に驚いて顔を上げた。実際、フランスの大きさと日本の大きさを比べると、約二倍に近い差がある。
フランスにある色々な墓地を確認するのであれば、旅は必然的に歩いてすることになる。途方も無いその距離に声をあげれば、エマはなんでもないという風に笑った。

「はい。なので、バラの絵を売りながら少しずつ旅をしようかなって」

ずっとここでお世話になるわけにもいかないからと続けたエマに、セナはなんともいえない顔をする。
「でも……」

セナは口を開いて、けれどなんと言っていいかわからずにすぐ閉じた。手を差し出すことが必ずしも良いとは限らないことを、よく理解しているからだ。

「じゃあさエマ。あと一週間だけ、ここを拠点にしない?」

パスタを全て食べ終えたセナは、フォークを皿に置いて顔をあげた。

「一週間、ですか?」
「そう、一人あんたに紹介したい人がいるのよね」

食べ終わった皿を片付けるために立ち上がったエマが、不思議そうに首をかしげる。お礼を言って自分の皿も手渡したセナは、その人に連絡を取るに当たって、少し時間が欲しいのだと続けた。

「でも、なぜその人に?」
「情報を集めるのに、私と一緒でそいつもいい武器を持っているのよ」

セナの武器は情報誌の副編集長であること。そのセナがいい武器と言うのであれば、紹介してくれるその人物もかなりの武器を持っているのだろう。エマはそう思って、小さく首を左右に振った。

「幸代さんにも、セナさんにも。私は十分よくしてもらっています。どうやって返せばいいか、本当に……わからないくらい」

キッチンへと皿を運んだエマは、皿に付いた汚れを水で流しながら震える声で呟いた。
力を貸してもらえていることも、優しくされていることも嬉しい。しかし、人間は無条件で優しさを与えられ続けると、急に恐怖を感じるものだ。エマも例外なく、与えられ続けたセナたちの優しさが途端に怖くなった。

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