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おすすめ作品 Secret rose garden 小さな軌跡を探す旅 第5話

小さな軌跡を探す旅 ~Secret rose garden

2.小さな軌跡を探す旅

エマは毎日一生懸命働き、もらったお金も必要以上に使うことは一切せず、全て貯金へと回していた。
そうやって過ごすこと半年と少し。高校の頃からコツコツと貯め続けていた分も合わせて、ようやくフランスへ行く資金を貯めることができた。

「本当に、お世話になりました」
「無理しちゃダメよ? いつでも、ここに戻ってきていいんだからね?」
「風邪は、引くな」

無事にお金を貯めて、フランスへと旅立つ今日。エマは誓子と哲也の好意で、空港まで送り届けてもらっていた。
涙もろい誓子はハンカチを目に当てているが、すでに瞳から溢れている涙でハンカチは濡れている。いつも寡黙な哲也もその瞳には心配の色をわずかに滲ませて、細い体で大きなバックパックを背負ったエマを見つめていた。

「はい」

二人の暖かい言葉を受け、エマはしっかりと二人の目を見て頷いた。

「……信じて進め、そうすればきっと見つけられる」
「哲也さん……」

普段あまり自分から会話をしない哲也が、わずかに唇を緩めた。些細な変化だが、エマはその変化に思わず目を見開く。だが次の瞬間にはもう、哲也はいつもの仏頂面に戻ってしまっていた。

「落ち着いたら手紙をもらえないかしら。そうね、写真付きだと嬉しいわ」
「はい。フランスの綺麗な場所を、必ず送りますね」

飛行機の時間まではあと十数分。最後は笑顔で見送れるようにと、誓子は瞳に残った涙をハンカチで全て拭って、エマを優しく抱きしめた。

久しぶりに感じる人の温もり。それは雄子のときとは違う温もりだが、確かにエマの心に人の暖かさを伝えてくれる。この温もりを手放すのは辛いが、自分と家族の繋がりを探す旅はまだ始まってもいない。
エマは笑顔で誓子の背中をトントンと二回叩くと、ゆっくりとその体から離れた。

「それじゃあ、行ってきます」
「……行ってらっしゃい」
「気をつけて、な」

いつの間にか自然に出るようになった「行ってきます」の言葉を口にして、エマは二人に最上級の笑顔を送ると、搭乗ゲートへと向かったのだった。

日本からパリへは、飛行機で約十三時間。かなりの長旅だ。
機内食を食べたり、窓際の席だったために空の景色を堪能しながら過ごせば、いつの間にかエマは眠ってしまっていた。

目が覚めると、長いと思っていた十三時間はもう終わる寸前で、すでに窓からは広大なヨーロッパ大陸が広がっていた。
機長から、着陸準備に入るというアナウンスが流れ、続いてシートベルトの着用を促すライトが点灯した。スチュワーデスの言葉と点灯しているライトの指示に従って、エマはシートベルトをしっかりと閉める。

着陸する瞬間に感じた浮遊間に少しの気持ち悪さを感じたが、そんなものは大して気にならなかった。これから自分の家族を探す旅が始まるのだ。エマはどこか期待のこもった瞳で、近づいてくる滑走路を見つめた。

「ついた……」

雄子から写真を受け取り、裏側の文字から、カミーユがフランス人である可能性を知った。その直後から、エマはずっと独学でフランス語の勉強を続けていた。

その甲斐もあってか、機内でスチュワーデスとの会話は問題なくできていた。だが、外国人をたくさん相手にするスチュワーデスと違い、本場のフランス人に言葉が通じるのかはまだわからない。

突如襲ってきた不安に立ち止まったエマだったが、自分に気合を入れるように両頬をパチンと叩く。

「行こう!」

日本語で呟いて、足を大きく一歩前へ踏み出した。
バックパックに入れて持ってきているのは、財布と少しの洋服に下着。そして絵を描くためのスケッチブックと鉛筆、絵の具だけだ。空港を出たエマは早速スケッチブックを取り出して、そこにフランス語で大きく文字を書いた。その文字の右下に小さくバラを描けば、完成だ。

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