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おすすめ作品 Secret rose garden 縁 第3話

縁をつないで ~Secret rose garden

自分の家族との思い出を探すため、フランスに行くことを決意したエマ。それからの行動はとても早かった。

まずは、これからお世話になる誓子と哲也にこの話を伝えた。二人のことをとても大切だと思っていること、それでも自分の家族のことを知りたいと話す。
本当の家族のこと、自分が生まれ、育ったときのこと。唯一の顔を確認することができる祖母、カミーユのことも知りたいとエマは説明した。

写真から見つけられた手がかりは、フランス語圏のどこかではないかということだけ。探すとなると、とても大変な旅になる。そのことを理解したうえで、それでも探しに行きたいとエマは語った。

たどたどしい言葉だった。それでもしっかりと二人には伝わったようで、涙を溢れさせていた誓子は、涙の跡が残る頬を拭うこともせず微笑みを浮かべ、エマの想いを受け入れてくれた。対する哲也も基本的に無言ではあったが、反対の声を上げることはなく、心なしかエマは彼の瞳の奥が優しいように感じた。

「お金はどうするの? 手がかりはそれだけなんでしょう?」
「えっと、まずはここで働かせていただきながらお金を貯める予定です。生活費とフランス語の勉強に使う以外は貯蓄に回して……。あとここのお仕事が休みの日に、趣味で描いているバラの絵を売ってみようかなと思っています」

涙を拭った誓子は、多少はお金を工面することもできると言った。だが、エマはその提案に、首をゆるく振って拒否を示す。海外に行ったときに移動しながらお金を工面する方法を模索していたエマは、まず日本でバラの絵を売ってみることも計画に入れていた。そのこともちゃんと誓子に伝える。

「ありがとうございます。でもこれは、私自身のことを知るための旅……私の力で、頑張りたいんです」

誓子の申し出は正直本当にありがたかった。だが、これは自分の繋がりを探す旅。ここで生活できる保証を貰っておきながら、それを捨てて、見つかるかわからないものを探しに行くのだ。お金まで迷惑はかけたくない。
拙い言葉でそう締めくくったエマに、誓子は再び感動で涙しながら

「何かあれば言うように」

と最後まで念を押していた。

週五日はバラ農園で朝から働き、二日ある休みを使って路地裏でバラの絵を売る。
そんな生活に慣れてきたある日の日曜日。エマがいつものように路地裏でバラの絵を描きながら売っていると、バラが描かれたキャンバスに影がかかった。

「素敵な絵ね」

影がかかったと同時に降ってきた声に顔を上げると、そこにはスタイルのいい女性が立っていた。四十代半ばくらいのその女性は、ボブカットの黒髪を耳にかけながら、エマの描いた絵を覗き込んでいる。

「ありがとうございます」
「他の花の絵は描かないの?」

エマの筆の動きを楽しそうに目で追っていた女性は、展示してある他の絵も眺めたあと、不思議そうな顔で問いかけた。

「はい。私はバラを専門に描いているんです」
「そうだったのね」

落胆するわけでもなく頷いた女性は、名前を幸代と名乗った。幸代はエマに、自分が経営しているお店に飾る絵を探しているのだと伝える。

「他の絵も上手そうなのにね?」
「祖母の写真に描かれていたバラに一目惚れしたんです。なので、今はバラだけを描かせていただいてます」

そして嫌味としてではなく、エマの絵を見て思った純粋な疑問を投げかけた。
幸代の声のトーンでそれがわかったエマも、素直になぜバラの絵だけを描いているかを答える。

「おばあさんの?」
「はい。その写真が、家族との唯一の繋がりなんです」
「……? 写真、だけが?」
「……家族の記録が、それしかないんですよね」

幸代は、疑問に思ったことを次々とエマに投げかけた。だが、その聞き方には棘があるわけではなく。どこがとうまい説明はできないけれど、優しい響きをはらんでいた。

客商売をしている幸代は、人の話を聞き出すのがうまいのだろう。

そのあとも会話を続けるうちに、エマは自然と、血の繋がった家族との、祖母との繋がりが写真一枚だけしかないことを話していた。その写真に写っているバラの花を、描き続けているのだと。
エマの境遇を理解した幸代は、飾ってあったバラの絵を一枚手に取った。

「これ、もらえるかしら」
「あ、ありがとうございます」

差し出した絵には、ピンク色のバラが一本描かれている。エマがお礼を言って金額を伝えると、幸代は金額を払ってから再び口を開いた。

「あと、追加で三枚購入するわ。急がなくていいから、できたらここに持ってきてくれるかしら? そうね、一枚はドット柄でお願いしたいわ」
「ドット柄……ですか?」

包んでもらった絵を受け取った幸代は、店舗の住所が記載された名刺を差し出しながら次の注文を伝えた。幸代から注文された柄は、今まで描いたことのないもので、エマの口から思わず戸惑った声が溢れる。

「そう、私のお店に合いそうだからその柄でお願いしたいんだけど。できるかしら?」
「わかりました。初めてですが、描かせてください」
「ありがと。楽しみに待ってるわね」

幸代から絵を頼まれて一週間。農園の仕事をこなしながら絵を描き上げたエマは、約束通り一枚は赤と白のドット柄、指定がなかった残りの二枚は、それぞれオレンジ色と青色のバラを描いた。

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