ブログ

おすすめ作品 Secret rose garden 少女の軌跡 第1話

少女の軌跡 ~Secret Rose Garden

0.プロローグ
幼い頃に家が火事になり、両親を亡くした少女がいた。
彼女の名前はエマ。五歳のときよりずっと施設の中で育ってきたエマは、今年で十八歳になった。
高校を卒業した彼女は、今までずっと暮らしてきた施設も今日、卒業する。

「お世話になりました」

施設の玄関に立ったエマは、見送りに並ぶ子供たちに、そしてお世話になった施設そのものに頭を下げる。エマの見送りには、施設にいる子供たち全員が出てきてくれていた。

「お姉ちゃん、僕らのこと忘れないでよね」
「元気でね」

いつも面倒を見ていたからか、施設の子供たちは自然とエマのことを姉と呼ぶようになっていた。別れの意味を正しく理解できておらずとも、それぞれが目に涙を浮かべ、思い思いの別れの挨拶を口にする。

「ありがとね。みんなも、雄子さんに迷惑をかけすぎないように」
「はーい」

元気のいい返事をして、手を振る子供たち。いつも言われている言葉を聞いたためか、涙を浮かべる子は徐々に減り、不安そうな顔をしている子もだんだんといなくなった。事前にここを出る話をしていたからか、それとも、まだ実感が湧いていないからかなのかは、まだわからない。
子供たちが落ち着いてきた頃、少し離れた位置で様子を見守っていた女性が、ゆっくりとエマのそばへと近づいてきた。

「気をつけてね、エマ」
「はい。雄子さんも」

彼女は、この施設に預けられた子供達の母である雄子だ。肩まである黒髪を一つに結わい、優しげな眼差しを持つ雄子は母と呼ぶにふさわしく、子供たちにもとても好かれている。

「誓子さんにはもう連絡を入れてあるわ。これからは一人だけれど、あなたならきっと大丈夫」

ふわりと微笑んだ雄子の顔を見たあとすぐに、エマは暖かな温もりに包まれた。
施設にいる間、何度も包まれたことのあるこの温もり。これからはもう無くなるのだとわかると、エマは途端に寂しさを感じる。彼女は顔を一瞬だけ雄子に押し付け小さく鼻をすすったあと、バレないように急いで笑みを作った。

「……私も、雄子さんの子ですからね」
「よし……じゃあ元気に、いってらっしゃい」

鼻をすする音も、少し赤くなっている目元にも、雄子は気付いていた。だが、気丈に笑うエマにそれを指摘するなんて無粋な真似はしない。
雄子は笑顔で、エマの背中を力強く押したのだった。

――私は、誰なんだろう
施設を出て歩く道。
ぼんやりとエマの頭の中に浮かんできたのは、漠然とした疑問。

見えなくなった施設の方を振り返ったあと、エマは自分のことを何も知らないことに気づき、突然の虚無感に襲われた。

今まではずっと、施設という閉鎖的な空間の中で雄子に愛をもらい、そして子供たちに愛を捧げて暮らしてきた。だがこれからは、その空間はもうない。自分を形作っていたものから放り出されたエマは、自分を知らず、誰とも強い繋がりのない自分自身にひどく不安を感じた。

「おばあちゃん……」

踏み出していた足を止め、エマは思い出したように、財布に入れていた古い写真を取り出した。
この写真は、焼けてしまったエマの家から見つかった写真だ。見つかった当初は、雄子が警察から預かってくれていた。彼女はエマが大きくなるまで大切にこの写真を保管し、エマが中学になったと同時に、この写真を手渡してくれたのだ。

写真に写っているのは、エマの祖母。優しい笑顔で映る祖母の後ろには、たくさんのバラの花が美しく咲き乱れている。
『Je t’aime カミーユ・ベルラン』
写真の裏側には、流れるような美しい字でそう書いてある。

この写真を見ているときだけは、施設で育ち、その中しか知らないはずのエマの脳裏に、ぼんやりと浮かんでくる光景があった。たくさんのバラが咲き誇る、たくさんの色の花が咲き乱れるそんな場所で、一回り年上の男の子と自分が遊んでいる。
浮かんでくるその光景をもっと良く思い出そうとするのだが、それ以上のことは何もわからない。

「フランスに行けば、わかるのかな」

書いてある文字からしても、祖母の名前のニュアンスからしてもおそらくフランス語だろう。そう思ったエマが無意識にポツリとこぼした言葉は、誰に聞かれるでもなく、空気に溶けて消えていく。
けれどエマの心には、大きな希望を残していた。

おすすめ作品 Secret rose garden 縁 第2話

関連記事

  1. おすすめ作品 Secret rose garden 再開 第27話

  2. おすすめ作品 Secret rose garden 小さな軌跡を探す旅…

  3. おすすめ作品 Secret rose garden 繋がる 第35話

  4. 40代女性のお酒好きダイエット中の方必見!ホームパーティにピッタリおす…

  5. おすすめ作品 Secret rose garden 一筋の光 第14話…

  6. おすすめ作品 Secret rose garden 繋がる 第34話

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


PAGE TOP