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おすすめ作品 Secret rose garden テラス・デュフラン 第24話

「お礼になるかわかりませんが。これ、よかったら」
「懐かしいですね。そう……あなたが探していたあのお店にも、こんなバラがたくさん咲いていました」

店の情報を見つけたあと、はやる気持ちを抑えながら書いた一枚を、エマはスケッチブックから切り取ってガブリエルに差し出した。たくさんの種類のバラが描かれたその絵は、記事とカミーユの写真を思い出しながら描いたものだ。
ガブリエルは懐かしさから目を細めると、お礼を言ってその絵を受け取る。

「お店に飾らせていただいても?」
「私の絵で良ければ」

しばらく眺めてから、嬉しそうに聞いてくれたガブリエルに頷いた。

話も終わり、ガブリエルはまた店の奥へと戻っていく。エマは少し冷めたコーヒーを喉の奥に流し込んでから席を立った。マスターを呼んでくれたウェイターにお礼を伝えて会計をし、店の外に出る。

ガブリエルに書いてもらった地図を見ながら歩を進めていけば、彼のいう通り五分もせずに地図の場所に到着した。シャッターの閉まっているその場所は、確かに記事と同じ、エマの持つ写真と同じ場所。

「……ここで、写真を撮ってもらったんだね。おばあちゃん」

少し汚れてしまった看板。だがそこには「Secret Rose Garden」という店名が刻まれていた。エマの持っている写真にうっすら写り込んでいるものと同様のその文字に、思わずエマの瞳が潤む。

「ここまで、なのかな……」

写真に書かれた文字からヒントを得てフランスへ行き、勇輝が見つけてくれた文字からここを見つけることができた。けれど、この先の手がかりが何もなくなってしまった。

エマの心は、今回予想以上に大きな期待をしていたようだ。途絶えてしまった手がかりに、その喪失感に、エマは写真を持っていた手をだらりと落とし、くるりと店に背を向けた。

店を照らす太陽は、街並みの中に沈む一歩手前。消える前にとより一層輝く光に目を細めながら、エマは力の入らない足でとぼとぼと道を歩く。宿も取らなければならないのに、とても今はそんな気分になれなくて、何も考えずにただ足を進めた。
エマは、かなりの上り坂になっている道を進んでいた。けれど、足が重いとも、辛いとも、今は感じることができなかった。
どれくらい歩いたのだろうか、気がついたら、エマの目の前にはケベック・旧市街の街並みが広がっていた。右手には、大きな川が流れている。

「……綺麗」
エマがたどり着いたそのときは、まさに、太陽が街へと沈むその瞬間だった。オレンジ色が、だんだんと紫色へ、そして濃い藍色へと変化していく。

高い丘に吹き付ける風。街をよく見ようと丘の淵に立てられた柵に近づき身を乗り出せば、壁に当たった風が、下からエマを持ち上げるように吹き上げてくる。

視界を遮るものがなくなり、エマに見えるものは立ち並ぶ家々の屋根と、そしてセント・ローレンス川だけになった。吹き上げてくる風も相まって、まるで自分が鳥になり、空の上から街を眺めているようなそんな錯覚を起こす。
夢中になって眼下に広がる街を見下ろすエマの心の中に、じんわりと暖かい気持ちが蘇ってきた。どこか懐かしさを感じる自分の胸を不思議に思ったエマは、ここが自分が知っている場所なのではないかと考えた。そして小高い丘になっていたその場所を歩き回り、何かこの場
所が分かるものがないかと辺りを探す。

いつの間にか、太陽が街の向こうに消えて、空には星が輝き始めた。

「あの、すみません。ここの名前って……」

人もまばらで、あたりも見えづらくなっている。明日またこようかと思ったエマのそばを、ウォーキングをしている老夫婦が通りがかった。藁にもすがる思いで声をかければ、老夫婦は気にした風もなく笑って答えてくれる。

「観光の方? ここからの景色は綺麗でしょう?」
「この場所は、テラス・デュフランと呼ばれてるよ」

教えてくれた二人に、エマは深々と頭を下げた。

「テラス・デュフラン……」

自然と気持ちが暖かくなり、どこか既視感を感じたここからの景色。エマは二人に教えてもらった名前を、しっかりと胸に焼き付けた。

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