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おすすめ作品 Secret rose garden テラス・デュフラン 第22話

「エマ、起きてる?」

ノックの音と、男性の声。そして、ほんのりと香る小麦の香ばしい匂いに、エマの意識がゆらりゆらりと浮上した。
まだ起きたくないとまどろむ頭に、もう一度聞こえてくるノックの音。

「エマ?」
「あ、お、おはようございます!」

ようやく覚醒した頭で状況を思い出したエマは、服を急いで着替えるとドアを開けた。ドアの向こうには、もう一度ノックをしようとしたのか、右手に作った拳を上げた状態で勇輝が立っていた。

「うん、おはよう。ご飯にしようか」
「ごめんなさい。準備させてしまって」

手櫛で髪を整えていたエマが、すでに焼きたてのパンと、暖められたスープが用意されている席を見て声をあげた。

「エマの話に刺激されたからかすごく調子よくてさ、むしろすごく感謝してるんだ。ほら、座って食べよう」

勇輝はすこぶるご機嫌なようで、鼻歌を歌いながら席に着いた。促されるままエマも席に座って、二人で手を合わせる。

「わ、美味しい」
「口にあったようで良かった。昨日の夜は食べなかったし、お腹減ってただろ?」

熱々のスープには、大きい野菜がゴロゴロと入っていた。ジャガイモを一つすくい上げて、湯気が上がるそれに息を吹きかけて冷ます。口に運ぶと、火の通ったジャガイモはほろほろと崩れ落ちて、染み込んでいたスープの味が舌の上に残る。
昨日の夕食を食べていないことすらエマは忘れていたが、そうでなかったとしても、優しい味のこのスープはとても美味しいと感じたことだろう。

「今日はこのあと昨日の続きをするんだろう?」
「はい。検索結果で昨日確認できなかったところを見てみようと思います」
「ん。無理はしないようにね」

エマの予定を聞いて頷いた勇輝も、昨日の続きをリビングで書いているからと口にした。エマは了承を伝えたあと、洗い物はやらせてほしいと席を立つ。一度は断った勇輝だったが、それくらいやらせてほしいとお願いしてきたエマの言葉に、お礼を言って食器の片付けをお願いしたのだった。

食器も洗い終えて、勇輝の部屋で再びエマはパソコンと向かい合っていた。表示される文字を確認し続けること数時間。太陽が真上に来た頃、エマの目が見開かれ、握っていたマウスの動きが止まった。

「……見つけた」

震える声を出したエマの視線の先には、とある花屋の記事が書かれていた。
Secret Rose Garden ケベック州のケベック・シティ旧市街にある花屋。バラを中心にたくさんの花を扱うこの店は、ケベック・シティ旧市街に住む人々の憩いの場だ。

記事には写真も入っていた。エマの持っている写真とは違い、花屋がメインに取られたその写真には、店名である「Secret Rose Garden」の文字がよく見える。写真を取り出して見比べてみると、大きさは違うが同じ看板のように見えた。

「勇輝さん!」
「ん?」

ノートパソコンと向かい合っていた勇輝が、エマの声に顔をあげた。視線を上げた勇輝の目に映るのは、キラキラと瞳を輝かせ、頬を興奮からか赤く染めたエマの姿。

「見つけたんだね」
「はいっ!」

その様子から察した勇輝は、開いていたパソコンを閉じると立ち上がった。

「お昼ご飯だけ食べてから行きなよ。といっても、朝の残りなんだけどね」

キッチンへ向かった勇輝は、スープの残りを火にかけて、パンをトースターに入れるとタイマーをセットした。五分程度でチンッと音が鳴り、朝と同様に香ばしい香りが漂ってくる。
勇輝の言葉に頷いたエマはパンを置く皿を準備して、焼きあがったパンをその皿によそうとダイニングテーブルに腰を下ろした。勇輝もちょうど暖め終わったスープを持って、机に座ったところだ。

「短い時間だったけど、すごく有意義だったよ」
「私の方こそ、勇輝さんのおかげでまた、前に進めました」

スープを飲み終えたエマは、勇輝をまっすぐと見つめて静かに声を出した。食べ終わった食器キッチンに運び、洗いながらお礼の言葉を口にする。

「おばあちゃんを見つけて、連絡しますね」
「うん。楽しみに待ってるよ。気をつけて」

皿を洗い終えたエマは、見つけたページを勇輝に頼んで印刷させてもらってから、自分の荷物を纏めた。そして、勇輝と共に彼のアパートの外にでる。
天気は快晴。雲ひとつない青空に、強すぎない、木々を揺らす程度の心地よい風が吹き抜けるとてもいい陽気だ。天気にも背中を押されている気がして、エマは気持ちも新たにしながら勇輝と向かい合う。

「ケベック・シティ旧市街なら、電車で向かった方がいいと思う」
「本当に、何から何までありがとうございます」
「こちらこそ。久しぶりに思うまま書けた気がするよ。お互いまた、頑張ろう」

勇輝から差し出された右手を、エマもしっかりと握り返す。

「はい。それじゃあまた」
「気をつけて」

ケベック・シティ旧市街主編に向かう電車のことも、丁寧に教えてくれた勇輝に別れを告げた。

駅へとたどり着き、乗るべき電車が来るまでの間、勇輝に印刷してもらった紙を確認する。
何度確認しても、当然そこには写真と同じ店の名前が書かれていて、エマは緩みそうな涙腺を必死に閉める。

そしてじっくりとその紙を眺めたあと、電車がきたと同時に綺麗に折りたたんで、バックパックのポケットへとしまいこんだ。

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